「9年目の戦友」

私と彼等の関係は既にペットでは無い。友、そして戦友なのだ。

現在高校1年の私だが、初めてペットが欲しいと思ったのは小学二年生の時だった。
我が家は伝統的にペットを禁止されている家である。
職業上、家で五月蝿くされては困る上、家族出張で度々家を空けなければならないからだ。
故に、我が家はいつも静かで近所の犬の遠吠えを方耳に生活をしていた。
そんなある日、父が大きな買い物をして帰って来た。
それは一メートル強ある水槽。餌、空気ボンベ、そして、沢山のネオンテトラとコリドラス。
蒼と赤のコントラストを放つネオンテトラ、大きくて風格のあるコリドラス。
父はテトラ達なら出張中でも祖母が餌をやってくれるし、騒音を立てないという事で彼等を買ってきたという。
彼等の魅力的な姿に私は一瞬で魅かれた。
その日から我が家には家族が増えた。ネオンテトラとコリドラス。
私はネオンテトラ達を一括して『鈴木さん』と呼び、コリドラスで一番大きい彼に『ボス』と名づけた。
鈴木さんもボスも長生きで我が家の玄関はいつも明るかった。
遊びに来た友人達も彼等に興味を持ち、よく我が家に見に来たものだ。
彼等が我が家に来て、一年が経ったある日。
いつも通り私達は沖縄へ家族出張へと出かけた。
数日前からボスの様子がおかしく、水槽内をフラフラとしていたのだが、どうする事も出来ず
結局餌を多めにやって、出かけてしまった。
それから四日後、我が家に帰ってくると水槽のヘリに大きな影が浮いていた。
ボスが、死んでいたのだ。
夜、私は、大声で泣いた。あの日から、初めてペットという存在が我が家に来たあの日から、
水槽内の長として長年生き続けていた彼が死んだのだ。
小学三年生の時の11月12日、彼は遠い世界へと旅立った。
その後、鈴木さん達は日に日にその美しいコントラストを薄れさせ、
鈴木さん達もゆっくりと、一匹ずつ、死んでいった。
それが、寿命だったのだ。
どうすれば鈴木さん達がこれ以上死なずに居られるかと考えた。
考え始めて数ヶ月、彼等の寝床、水槽にある変化が現れる。
水槽の表面に小さなプツプツが沢山ついているのだ。
何事かと思っていると、父がそのプツプツを覆うようにしてプラスチックの小さな簡易水槽を貼り付けた。
それは、彼等の子孫の卵だったのだ。
私は嬉しくなり、それから毎日のように水槽の前で卵を観察していた。
何日か経つと、その卵が孵化し、小さな簡易水槽の中で小さな鈴木さんが泳いでいるのが
肉眼でもはっきりと見えた。
その時の感動は、今でも忘れられない思い出になっている。
この時、私は始めて先の鈴木さん生存計画の解決策を発見したのだ。
結論、私に出来る事は無い。彼等は彼等でこの水槽の中で沢山の命をまた産んでいた。
鈴木さん達はこうして子を残し、新たなる鈴木さんを生かしていたのだ。
それから、何度も家族出張があり、その度に寿命を迎えた鈴木さん達は旅立って逝った。
そして今、我が家の水槽にはネオンテトラの鈴木さん、コリドラスの他に沢山の家族が満ち溢れている。
明るい玄関に沢山のコントラスト、風格のあるコリドラス達、チョコチョコと動き回るエビ。
そんな幸せな日々が続くかと思っていた矢先、また、一つ事が起こった。
停電という名の地獄。そして、機械の破損。
台風で我が家は停電になり、数時間、水槽の空気ボンベが止まってしまった。
ストローで空気を与えては見たが私の肺活量程度ではどうにもならない。
停電が収まり空気ボンベが起動し始めた頃、耐えきれず数名の鈴木さんが旅立っていた。
それから数時間後、今度は水槽内の温度調節機器に異常が現れる。
発熱体が壊れ、水槽内の温度が30数度近くまで上がってしまっていたのだ。
すぐさまビニールの中へ彼等を非難させる。ここでもまた数名の鈴木さんが旅立ってしまった。
立て続けに起こったこの二つの事件で家族は一気に半分以下となってしまっていた。
しかし、今回は泣かなかった。こうして、生き残った彼等が居てくれたからである。
いくつかの危機を共にし、彼等はもうペットでは無くなっていた。
彼等は、我が家と共にいくつもの危機を乗り越えた『戦友』と呼ぶべき友だ。
今日もまた、戦友達は水槽内を元気に泳いでいる。
私達と彼等では水上で生活する者と水面下で生活する者という違いがある。
だからこそ、違う環境であっても元気に生きる彼等を見ていると不思議と心が安らぐのだ。
触れられない、声も聞けない、しかし繋がりが途絶えることは無い。
ボスの死から既に8年が経つ。私も、8年の時を経た。
彼等が我が家の一員として生活を共にしている以上、私達と彼等は対等な関係であると、
今ならば胸を張って言えるだろう。
誰にもくだらないとは言わせないこの思い出がある限り、我が家と戦友達は永久不滅である。
 
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