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| 「少女達が救った…小さな小さな命」 |
公園のトイレの片隅で、小さな小さな命が震えていた。冷たいコンクリートの床と、固く閉ざされたドアの鍵。
「ニャー。ニャー。」
今にも消えてしまいそうな、か細い鳴き声に、気付く者は、誰もいなかった。
「お母さん!幼稚園の裏にある公園に、猫がいるんだって!」
友達にでも聞いて来たのか、小学一年生の娘がある日、私にそう教えてくれた。
「ふーん。そうなんだ。」
きっと、野良猫でも住み着いているのだろうと、その時私は、特に気にとめる事もしませんでした。
「お母さん!自転車の練習したいから、公園に連れてって!」
と、何日も何日も言い続ける娘の心の中が、私には手に取るようにわかっていました。
「本当は『自転車の練習』じゃなくて『猫を見に行きたい』でしょうが・・・。」
と、心の中で苦笑いしながらも、根負けした私は、娘を連れて公園に行く事に・・・。
ピカピカ光る真新しいヘルメットをかぶり、自転車にまたがる娘と、私を公園で待っていたのは、
とてつもなく残酷な光景だった。
「誰がこんなひどい事したの?トイレに鍵を掛けて・・。子猫を閉じ込めて・・・。」
公園の入り口に足が差し掛かった瞬間、小学校の高学年ぐらいの女の子が、そう叫ぶ声が、耳に飛び込んで来た。
「どうしたの?」
思わず声を掛けた私に、その子はポツリポツリと話し始めた。
段ボールに入れられて捨てられていた子猫に、同級生の友達とお小遣いを出し合いながら買った、
キャットフードを毎日あげている事。本当は家に連れて帰りたいが、親が許してくれない事。
そして今日、ご飯をあげに来たらいなくて、探して探してやっと見付けたその子猫が、鍵の掛けられた
トイレの個室の中にいた事。それは、まぎれもなく、心ない誰かがやった、いたずらに違いなかった。
トイレのドアによじ登り、内側に飛び降りた、その女の子。
次の瞬間、
「ギッ、ギッギー。」
きしむトイレの戸を開ける、その子の腕の中には、瀕死状態の子猫が、抱きかかえられていた。
見るからにやせ細り、人を見ては、震えている。
「大丈夫だよ。もう大丈夫だよ。」
と、何度も語り掛けるその子の姿を見ていたら、放っておく事なんてとてもできなかった。
「病院に連れて行こう!このままだと、この子猫、死んじゃうかもしれない。おばちゃんにこの子猫、 預からせてもらえないかな?」
きょとんとした瞳で、その子は私を見詰めていた。
無理もない。今日初めて会って初めて話したおばちゃんなのだ、その子にとって、私は。
「おばちゃんの家ね、ここの家なの。電話番号はここに書いておいたから、子猫の事が気になったら、
電話してくれても、家に来てくれてもいいから。」
そう言って、家の地図と連絡先を書いた紙を手渡すと、その子は、娘と同じ小学校に通っている四年生で、
猫が大好きな女の子である事を、私に教えてくれたのだった。
「おばちゃん。しまちゃん、元気?」
「しま」と名付けられたその子猫の事を、ほぼ毎日四人の子が変わるがわる、様子を見に来てくれる。
「みんな本当に、いい子達ね。みんなの優しい気持ちに包まれて、しまはとっても幸せだよ。本当に、ありがとうね。」
そう言った私に、
「ありがとう、なんていいよいいよ。だって、動物に優しくするのって当たり前の事だもん。
でもおばちゃん、野良猫ってだけで、まるで汚いものを見るみたいにみんながしまの事を見てた。
でも、『野良猫』って『野に住む良い猫』って書くでしょ。だから私、しまに『いいこ、いいこ。』って、
いつも抱き締めて言ってたの。」
そう言って微笑んでいるその子の瞳は、優しく、そして力強く輝いていた。
その輝きは、大人になるにつれて忘れてしまいがちな「純粋さ」からくるものに、違いなかった。
あれから4年。あの時小学4年生だった女の子達も、今では中学2年生になっている。
部活に頑張っている日焼けした笑顔は、少女から、大人の顔に近付きつつある。しかし、
「しまちゃ〜ん!元気?」
と、部活の帰りに寄ってくれる、純粋な眼差しを見るたびに、「まだまだ、捨てたもんじゃないな・・・この世の中も。」
と、目を細めている私が、そこにいるのでした。
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